個人事業主の税金計算方法を紹介|所得税・住民税・消費税など

個人事業主にはさまざまな力が要求されます。経営力・営業力はもちろんですが、経理を淡々とこなす力も必要です。特に税金の計算は学校では教わらないうえ非常に複雑。税計算が問題なくできるかどうか不安に思う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、個人事業主が納める税金の計算方法を紹介します。税金ごとの計算方法を理解したい、おおよその納税額を把握したい、順調な資金繰りをしたいといった方はぜひ参考にしてください。

目次

個人事業主が計算すべき4つの税金

個人事業主で納める可能性のある税金は以下の4つです。

  • 所得税
  • 住民税
  • 消費税
  • 個人事業税

このうち、最優先で計算できるようにすべきなのは所得税です。事業を営む以上、所得税は確定申告で必ず計算する必要があります。そのほかの税金は、該当する人のみ計算方法を覚えておきましょう。ただ、自身で計算できるようになれば税額をすぐに把握できるようになるため損はありません。それぞれの税目について紹介します。

税金1.所得税

所得税は、毎年1月1日から12月31日の1年間で得た収入から必要経費を引いた額である「所得」に対してかかる税金です。税金は翌年の2月〜3月に行われる確定申告期間に納めます。

税金2.住民税

住民税は、毎年1月1日時点で住所のある自治体へ納める税金です。市区町村から住民税課税決定通知書が送られてきて、6月ごろから納税ができるようになります。税金の支払い方法は一括払いまたは年4回の分割払いです。

税金3.消費税

消費税は、商品・サービスの消費に対して課される税金です。自身が受け取った消費税から支払った消費税を引いた金額を、翌年3月31日までに納付します。

税金4.個人事業税

個人事業税は、特定の業種を行っている場合に課される税金です。業種・税率は都道府県ごとに異なるため、自治体のWebサイトで確認しましょう。

【税金1.所得税】個人事業主の計算方法

はじめに、所得税を計算するために必要な項目について解説します。所得税額を求める3つの計算式は以下のとおりです。

項目計算式
所得総収入ー必要経費
課税所得金額総所得金額ー所得控除
基準所得税額所得税額ー税額控除
所得税の計算式

(※1)

所得は総収入から必要経費を差し引いて算出します。必要経費は、売上原価や売り上げを得るために費やした金額のことです。

算出した所得のうち、課税対象となる金額を課税所得金額といいます。課税所得金額は総所得金額から所得控除額を差し引いた金額です。総所得金額は以下の金額を合計したものです。

  • 事業所得・不動産所得・利子所得・給与所得・総合課税の配当所得・短期譲渡所得・雑所得・長期譲渡所得の2分の1・一時所得の2分の1の金額の合計
  • 退職所得・山林所得

(※1)

これらの合計から、以下のような所得控除を受けた場合は、控除額を差し引いていきます。

  • 基礎控除
  • 社会保険料控除
  • 生命保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除
  • 配偶者控除
  • 配偶者特別控除 など

(※1)

課税所得金額を算出できたら、所得税額を計算しましょう。所得税額は以下の表を用いて計算します。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円
所得税速見表

(※2)

課税所得金額に該当の税率を掛けて、控除額を差し引いた額が所得税額です。

所得税額が出たら、基準所得税額を算出します。所得税額から、以下のような税額控除を差し引いて算出しましょう。

  • 配当控除
  • 外国税額控除
  • 住宅借入金等特別控除
  • 住宅特定改修特別税額控除 など

(※3)

これらを差し引いた金額が算出できたら、所得税の計算は終了です。次に紹介する復興特別所得税額と基準所得税額の合計が、納税すべき所得税額となります。

※1:所得税のしくみ

※2:No.2260 所得税の税率

※3:No.1200 税額控除

復興所得税

復興特別所得税は、基準所得税額×2.1%の計算で算出します。復興特別所得税は2011年12月に創設され、同年3月の東日本大震災の復興財源に充てられている税金です。所得税と一緒に徴収される仕組みとなっています。

(※4)

※4:個人の方に係る復興特別所得税のあらまし

【税金2.住民税】個人事業主の計算方法

住民税額は、自身で計算する必要はありません。自治体で計算され、6月ごろに住民税課税決定通知書の送付をもって税額が確定します。住民税額の計算式は以下のとおりです。

  • 住民税の金額=均等割+所得割

それぞれの計算式を紹介します。

均等割

均等割は全自治体一律5,000円です。行政サービスの貴重な財源となる住民税は社会全体の会費のような役割を果たしており、全国民平等に課されています。

(※5)

※5:住民税について教えてください。所得税とはどう違うのですか?そもそも国税と地方税の違いはなんですか?

所得割

所得割の計算式は、以下のとおりです。

  • 所得割=課税所得金額×10%ー税額控除

所得割は課税所得金額がベースとなるため、人によって金額が変わります。課税所得金額が高くなるほど、負担額が増える仕組みです。

(※5)(※6)

※5:住民税について教えてください。所得税とはどう違うのですか?そもそも国税と地方税の違いはなんですか?

※6:総務省|地方税制度|個人住民税

【税金3.消費税】個人事業主の計算方法

消費税は日常でも触れる機会が多い税金です。現在の税率は10%の標準税率と8%の軽減税率の2つがあります。課税対象売上高が1,000万円以下の場合は、消費税の納税が免除されます。

消費税の計算式は、以下のとおりです。

  • 消費税額=課税売上高×消費税額-課税仕入額×消費税額

標準税率

標準税率は一般的な商品・サービスの消費にかかる税率です。現在の税率は売上高の10%と定められています。

軽減税率

軽減税率は、酒類・外食以外の飲食品や週2回以上発行される定期購読契約の新聞などに課される税率です。現在の税率は売上高の8%と定められています。

消費税は免税になることも

個人事業主の消費税が課税・免税となる基準は以下のとおりです。

事業者区分条件
課税事業者・前々年の課税売上高が1,000万円を上回った場合
・前々年の課税売上高が1,000万円を下回っており、前年の1月1日〜6月30日の期間の売上高が1,000万円を上回っている場合
免税事業者前々年の課税売上高が1,000万円を下回っており、前年の1月1日〜6月30日の期間の売上高が1,000万円を下回っている場合
課税事業者・免税事業者の区分

(※7)

消費税の課税・免税が決まるまでは、約2年を要します。直近2年間に1度でも課税売上高が1,000万円を超えると、消費税納税の義務が発生します。売り上げが1,000万円を超えない場合は、消費税が免税されると覚えておきましょう。

※7:消費税のしくみ

インボイス制度

2023年10月1日から、インボイス制度が始まります。現行の2つの税率による混乱を防ぐべく、請求書の発行方式や消費税の仕入税額控除について新たなルールが設けられる予定です。

インボイス制度の詳細は、こちらで詳しく紹介しています。(内部リンク)

【税金4.個人事業税】計算方法

個人事業税は地域によって課税対象が変わります。自身の営む業種が個人事業税の課税対象となるかどうか、自治体の属する都道府県のWebサイトでチェックしてみてください。原則、8月・11月の年2回に分けて納税します。

税額の計算方法は各自治体共通です。計算式は以下のとおりです。

  • (所得金額 − 各種控除額等 − 事業主控除額 )× 税率 = 税額

所得金額から、該当する控除を差し引いた金額に、税率をかけて算出します。

各種控除に該当するものは、以下のとおりです。

項目控除の内容
損失の繰越控除青色申告のみ。3年間赤字の繰越ができる
被災事業用資産の損失の繰越控除震災、風水害、火災などによって生じた事業用資産の損失額を3年間繰り越せる。
事業用資産の譲渡損失控除・譲渡損失の繰越控除事業に使っていた機械、車両などを譲渡した際に生じた損失額を控除できる。青色申告者3年間損失を繰り越せる。
事業専従者控除【青色申告者】青色事業専従者に支払われた給与全額【白色申告者】事業専従者1人につきのいずれか少ない額・親族1人当たり50万円。ただし配偶者の場合は86万円・所得金額 ÷(事業専従者+1)
各種控除の詳細

(※8)

また、事業主控除は最大290万円が控除されます。控除額の内訳は以下のとおりです。

事業を行った月数事業主控除額
1ヶ月242,000
2ヶ月484,000
3ヶ月725,000
4ヶ月967,000
5ヶ月1,209,000
6ヶ月1,450,000
7ヶ月1,692,000
8ヶ月1,934,000
9ヶ月2,175,000
10ヶ月2,417,000
11ヶ月2,659,000
12ヶ月2,900,000
事業主控除額一覧

(※9)

事業を営む月数が多いほど控除額が大きくなり、税負担を減らせます。年間で所得金額が290万円以下の方は、個人事業税の支払いが発生しないことは押さえておきましょう。

※8:個人事業税 – 総務部財政局税務課

※9:個人事業税|税金の種類|東京都主税局

租税公課

個人事業税は租税公課として経費計上が可能です。事業税の他にも以下のような税金を経費として計上できます。

  • 固定資産税
  • 自動車税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税
  • 印紙税

(※10)

また、商工会議所の会費や協同組合の組合費なども租税公課として認められます。

※10:租税公課 – 確定申告書等作成コーナー – 国税庁

【シミュレーション】年収500万円の個人事業主の税金

以下の条件で、年収500万円の個人事業主の税金を確かめてみましょう。

  • 総収入額600万円
  • 必要経費100万円
  • 所得控除金額200万円
  • 税額控除1万円
  • 個人事業税の税率5%
  • 個人事業税の各種控除50万円・事業主控除145万円
  • 課税所得金額は事業所得のみとする

それぞれの税金は、以下のとおり算出できます。

税目計算式計算税額
所得税所得=総収入ー必要経費課税所得金額=総所得金額ー所得控除基準所得税額=所得税額ー税額控除
復興特別所得税額=基準所得税額×2.1%
所得(年収)=600万円ー100万円=500万円
課税所得金額=500万円ー200万円=300万円
基準所得税額=202,500円ー10,000円=192,500円
復興特別所得税額=192,500円×2.1%=4,042円
196,542円
住民税均等割:5,000円所得割:課税所得金額×10%ー税額控除均等割:5,000円所得割:300万円×10%ー1万円=29万円295,000円
消費税消費税額=課税売上高×消費税額-課税仕入額×消費税額売上高が1,000万円未満のため免税0円
個人事業税(所得金額 − 各種控除額等 − 事業主控除額 )× 税率 = 税額(500万円ー50万円ー145万円)×5%=175,000円175,000円
年収500万円の税額シミュレーション表

年間で60万円以上の税金がかかる計算でした。年収の1割以上の数字を税金として納める必要があります。

【シミュレーション】年収1,000万円の個人事業主の税金

以下の条件で、年収1,000万円の個人事業主の税金を確かめてみましょう。

  • 総収入額1,400万円
  • 課税売上高1,000万円(すべて10%)
  • 必要経費400万円・課税仕入額300万円(すべて10%)
  • 所得控除金額350万円
  • 税額控除5万円
  • 個人事業税の税率5%
  • 個人事業税の各種控除250万円・事業主控除290万円
  • 課税所得金額は事業所得のみとする

それぞれの税金は、以下のとおり算出できます。

税目計算式計算税額
所得税所得=総収入ー必要経費課税所得金額=総所得金額ー所得控除基準所得税額=所得税額ー税額控除復興特別所得税額=基準所得税額×2.1%所得(年収)=1,400万円ー400万円=1,000万円課税所得金額=1,000万円ー350万円=650万円基準所得税額=872,500円ー50,000円=822,500円復興特別所得税額=822,500円×2.1%=17,272円839,772円
住民税均等割:5,000円所得割:課税所得金額×10%ー税額控除均等割:5,000円所得割:1,000万円×10%ー5万円=95万円950,000円
消費税消費税額=課税売上高×消費税額-課税仕入額×消費税額1,000万円×10%ー300万円×10%=70万円700,000円
個人事業税(所得金額 − 各種控除額等 − 事業主控除額 )× 税率 = 税額(1,000万円ー250万円ー290万円)×5%=230,000円230,000円
年収1,000万円の税額シミュレーション表

年収の3割近くが税金として引かれる結果となりました。特に消費税額が高くなっています。課税事業者・免税事業者で大きな負担差があるといえるでしょう。

個人事業主が簡単に税金を計算する方法

個人事業主が最優先で計算すべきは所得税です。所得税は確定申告の際に必ず計算しなければなりません。とはいえ、計算ミスによる追徴や知識不足による脱税など、税に関するトラブルはできる限り避けたいものです。

所得税を簡単に計算するには、以下のような経理のソフトや確定申告ソフトを使いましょう。

  • マネーフォワード クラウド会計
  • freee会計
  • やよいの青色申告 オンライン
  • HANJO会計

こうしたソフトがあれば、経理や確定申告に関する知識が深くなくても、簡単に申告書を作成でき、正しく納税ができます。

まとめ

個人事業主が納める税金の計算方法を紹介しました。個人事業主が納める税金は多いですが、なかでも確実に理解しておきたいのは所得税です。また、すでに1,000万円以上の売り上げがある方は、消費税の計算方法も頭に入れておきましょう。一方、住民税・個人事業税は事前に納税額を知りたい場合などに計算してみるとよいです。

税金の計算方法を覚えれば、確定申告や経理事務がグッと楽になります。正しく税金を納めて健全に事業経営をしましょう。

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