所得が800万円近くになると、税制面においてメリットがある法人化が選択肢として出てきます。
しかし気軽に法人化をして後悔することがないよう、事前に気をつけるべき点を把握しておきましょう。
本記事ではリスクを回避するために、法人化により後悔する可能性のある例をご紹介します。
【お金編】法人化による後悔5パターン
個人事業主は累進課税制度により、収益が上がるにつれて税金も高くなります。
そのため節税対策で法人化をしたはずが、その後発生し得るお金の問題を把握しておかなかったために、後悔してしまう可能性がある点に注意が必要です。
本章ではお金の問題で後悔してしまわないよう、例を挙げて解説します。
パターン1:準備資金が足りない
法人設立には初期費用がかかります。
初期費用の内訳として定款の作成、登記費用、印鑑の準備などがあり、これらは必ず支払わなければなりません。
個人事業主が株式会社もしくは合同会社を設立する場合にかかる費用は以下のとおりです。
- 株式会社:26万円前後
- 合同会社:11万円前後
さらに設立時の手続きを税理士などに委託する場合、費用が2万円~10万円発生します。
支度金として合計13万円~36万円前後の準備が必要です。
ほかにも事務所を構える、人を雇うことなどを考えている場合、契約金や人件費が発生します。
法人化に際して必要となる費用を事前に把握してから、手続きを進めていくことをおすすめします。
法人設立に必要な費用の詳細については、下記ページをご覧ください。
パターン2:維持費が足りない
法人設立後、会社を維持するためにはさまざまな維持費が必要となります。
- 法人税や地方税
- オフィスの家賃や光熱費
- 業務に必要な機器の購入代金
- 消耗品費用
- 税理士への報酬
法人税や地方税は業績が赤字であっても必ず支払わなければなりません。
法人設立後は確定申告などの事務処理を細かく行う必要があるため、事務処理を税理士などの専門家にお願いすることが多く、費用もかかります。
ご自身の会社全体でどれだけの維持費が発生するか、事前に把握しておくことが大切です。
パターン3:役員報酬を支払う必要がある
法人設立時に役員を任命していた場合、社長である自分以外にも毎年役員報酬を支払う必要があります。
しかし、役員報酬は年俸制のため、法人設立直後で経営に慣れていない状況下では忘れがちです。
金額については定款作成時に役員報酬について定めるか、もしくは定めていない場合は株主総会の決議により定めます。
仮に業績が芳しくなく報酬を減らしたいと考えても、一度決めた金額を変更するには、定款変更などの手続きが必要となるため時間が必要です。
役員報酬の金額は経営を圧迫しない程度の金額に抑えておくようにしましょう。
パターン4:給与、社会保険料を支払う必要がある
従業員を雇う場合、給与および社会保険料の支払い義務が生じます。
社会保険料にいたっては、従業員の数にかかわらず社会保険に加入する義務があるため、必ず支払わなければなりません。
社会保険料は必ず従業員と折半する形で支払うため、従業員が増えるごとに会社側の負担も大きくなります。
以下は従業員1人を雇った場合の例です。
- 年収400万円
- 1年間で支払う社会保険料:約57万円
- 会社負担:27.5万円
※税金・保険料シュミレーションにて算出
雇用を考えている場合、会社が負担しなければならない費用があることを念頭に置いておく必要があります。
パターン5:赤字でも納税義務がある
法人では、たとえその年の業績が赤字であったとしても、法人税を支払う義務があります。
個人事業主は赤字だった場合、税金を計算するための総所得が0円となるため、所得税や住民税も0円です。
しかし法人の場合、法人税のうち法人住民税の均等割が発生するため、最低でも70,000円(※)は支払わなければなりません。東京23区内に事務所等を有する法人の場合、以下の表の通りに均等割が発生します。
【会社管理編】法人化による後悔3パターン
法人は法律で権利義務を認められているため、対外的にも信用される立場となります。
その分、法人経営に関する決めごとの多くは、正式な手続きを踏まなければならず、多くの時間が必要です。
とくに決算、定款の変更、役員に関する決めごとについてご紹介します。
パターン1:決算公告が大変
法人化したあとは、定めた決算日から2か月以内に税務署へ決算公告をしなければなりません。
毎月損益計算書を記入しているなどの対策を講じているのであれば、2か月もかからずに決算公告を行えますが、日ごろから業務と事務処理を平行して行うのは大変です。
仮に2か月以内に提出できなかった場合、追徴課税を課される可能性もあります。
追徴課税とは、税務調査で申告漏れや無申告が発覚した場合、本来の納税額との差額を支払うことです。
決算公告は会社規模が小さくとも多くの書類を作成しなければならないため、専門家である税理士などに依頼するのがおすすめです。
事務処理として大変なだけではなく、決算公告には費用がかかります。
電子公告であれば1万円前後で公告可能ですが、官報販売所で申し込む場合は最低でも7万4,331円(税込み)(※)必要です。
税理士と雇用契約を結ぶのであれば、税理士に報酬を支払う必要もあるため、出費がかさみます。
時間や手間の削減を優先するか、お金を優先するかで選択肢は変わりますが、決算公告は多くの時間を費やす業務であるため、税理士に委託することをおすすめします。
パターン2:定款の変更が大変
法人化する際に定款を作成しますが、定款は一度だけ作成すればよいというわけにはいきません。
絶対的記載事項や相対的記載事項の一部を変更する場合は、法務局にて変更登記の申請手続きが必要となります。
絶対的記載事項とは、定款を作成する際に必ず記載しなければならない事項のことです。
記載されていない場合、定款は無効となります。
絶対的記載事項の内容は以下のとおりです。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称及び住所
対して相対的記載事項は、とくに記載はしなくてもよいが記載していない場合、該当事項については効力が認められない事項となります。
相対的記載事項の内容例は以下のとおりです。
- 株式の譲渡制限に関する定め
- 株券発行の定め
- 取締役会の設置
- 監査役の設置
- 公告方法
- 設立時における現物出資や財産引渡
これら定款の変更例としてよく挙げられるのが、事業目的の変更です。
事業開始時はWeb関連の事業を展開していた企業が、のちに飲食業にも進出したいと考えた場合、定款に記載する事業目的を変更する必要があります。
多くの事務処理を行う必要があるため、専門家である司法書士などに委託することをおすすめします。
パターン3:役員の任期や構成の把握が大変
役員の就任、任期更新、辞任などを行う場合は、いずれも所定の手続きを踏まなければならず費用も発生してしまう点に注意が必要です。
仮に法人化の際に株式会社を選択した場合、取締役会を設置するかどうか決められます。
設置した場合、取締役3人に監査役1名を任命する必要があります。しかし役割や権限が違うため、構成の把握が大変です。
任期の把握のみならず、辞任や就任などの変更が発生した場合は、2週間以内に届出を提出する必要があります。
事務処理に忙殺されないためにも、委託、相談できる司法書士を探しておくことをおすすめします。
【経営方針編】法人化で後悔しないように注意すべきこと
個人事業主はすべての決定権を所持しているため、自由に経営に関することを決定できます。
しかし複数人で法人を設立した場合や、1人で法人化したとしても別の人から出資を受けている場合は、自由に経営方針を変更することができません。
会社を経営していくうえで、社長であるご自身が経営方針に疑問を感じたとしても、共同経営者や出資者の意見を聞かずにひとりで方針転換を行うのは難しいでしょう。
意見の対立により共同経営者が離脱する可能性もあり、解散の危機に陥ってしまう可能性もあります。
会社存続の危機に陥らなかったとしても、経営方針を変更するためには所定の手続きを踏む必要があるため、さらにお金と時間が必要です。
ひとりで法人設立をしないのであれば、事前に共同経営者や出資者と十分な相談をしたうえで法人化の手続きをすることをおすすめします。
【住所編】法人化で後悔しないように注意すべきこと
会社設立時に定款に登録する住所は、どの居住地であっても受理されるわけではありません。
とくに賃貸マンションや賃貸アパートに住んでいる場合、受理されないことがあります。
法務側では受理されたとしても、賃貸の大家が認めていないこともあります。
事前に把握しておかなかった場合、大家との信用問題に発展しかねません。
仮に法人設立後に住所を移転することになった場合、会社の所在地は絶対的記載事項に分類されているため、定款の変更を行うのに費用が発生します。具体的には、登記を変更するには3万円(※)の登録免許税が課されます。
定款の変更には時間がかかるため、法人化の前に住居地に問題がないことを確認しておくことが大事です。
【廃業編】法人化で後悔しないように注意すべきこと
法人化したが次第に業績が厳しくなってしまったため廃業したい、個人事業主に戻りたいと考えたとしても、簡単に廃業や解散はできません。
廃業手続きをするにも所定の手続きを踏む必要があります。
- 法務局にて解散の登記と清算人選出の登記を行う
- 税務署と市区町村に移動届出書を提出する
- 休業の場合は別途休業することを記載した移動届出書を提出する
上記の手続きを踏み、必要書類を提出したあと、決算結了の報告を受けるまで2か月以上はかかると言われています。
ほかにも、会社を解散させる手続きには41,000円の登録税および4万円前後の官報公告費用(※)が必要です。
解散させるのではなく休業を選択した場合は、登記作業が必要ではないため、登記分のコストはかかりません。
しかし、地方法人税の均等割は納付義務があるため、休業中であっても支払う必要があります。
法人化することはできても、簡単に会社を畳むことはできないため、法人化に値するか十分に考えておく必要があるでしょう。
※会社解散手続きのすべて-費用や登記申請、清算まで詳しく解説【Q&A付き】
実際に後悔した法人化の失敗談3選
この章では実際に法人化をして失敗した事例を3つご紹介します。
内容は以下のとおりです。
- 社会保険料の支払いがきつい
- 定款を作りこんでいなかった
- 引越しのたびに出費がかさむ
パターン1.社会保険料の支払いがきつい
売り上げが800万を超え、節税ができると聞いていたため法人化を決意しました。
法人化により100万の節税に成功。しかし、雇用している従業員の社会保険料については理解していたものの、自身の役員報酬に対しても社会保険料がかかるのを考慮にいれていませんでした。
役員報酬を多めに定めていたのが災いし、年間の支払いが総額150万以上になりました。
結果的に節税できた金額よりも支払った金額のほうが多くなり、最終的には資金繰りが難しくなり破産申請をせざるを得ない状況に陥ってしまいました。
パターン2.定款を作りこんでいなかった
いくつかの事業を多角的に行っていましたが、法人化の際に事業内容を整理せずに記載してしまいました。
その状態で作った定款に穴が多く、法人化後に事業転換、役員変更、規約変更などの指摘を受けるたびに定款の変更申請をすることとなり、その都度費用がかかってしまった。
創業資金を多めに用意していたにもかかわらず、資金繰りが厳しくなり借金をする状況に陥ってしまった。
パターン3.引越しのたびに出費がかさむ
個人事業主のときオフィスを構えていなかったため、開業届提出時には自宅の住所を記載していました。
とくに問題があるとも思わずにそのまま法人化を行いました。
ある日引越しを考え、引越し先を決定したあと法務局で指摘された内容が、会社の代表者の住所変更の登記には費用がかかることです。
会社の所在地が自宅であるため、引越しするたびにお金を払って登記を変更しなければならないという事実を知りました。
まとめ
法人化をして後悔したことをお金・経営方針・住所・廃業のカテゴリに分けて紹介しました。
法人化することで優遇される面は多いです。
しかし、法人化前に注意すべき点も多く、事前調査をおろそかにしてしまうと法人設立後に後悔してしまうかもしれません。
事前にしっかりと確認、シミュレーションをしておくことをおすすめします。
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