個人事業主は節税目的に小規模企業共済に加入すべき?節税&老後資金

個人事業主にとっては退職金のような役割を果たしてくれる小規模企業共済。掛金をすべて控除できるため、節税方法のひとつとしても有効です。

しかし「制度のメリット・デメリットがわからず加入を迷っている」「iDeCoで代用できないか」といった不安や疑問などが生じている方も多いでしょう。小規模企業共済はリスクを伴うため、制度を不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、個人事業主が小規模企業共済に加入するメリット・デメリット、加入までの流れ、iDeCoとの違いについて解説します。小規模企業共済について深く理解したい方は、ぜひ参考にしてください。

目次

個人事業主が節税するなら小規模企業共済に加入すべき?

個人事業主であれば、小規模企業共済への加入は前向きに検討してみるとよいでしょう。節税の選択肢としても老後資金を備える手段としても効果的です。

大企業に勤める会社員であれば、退職金を受け取れば老後資金をある程度カバーできます。また、退職後は厚生年金も受け取れます。

一方、個人事業主や中小企業の社員は退職金が出たとしても金額には期待できません。現代の老後資金問題は大企業の会社員でも不安の残る状況のため、個人事業主は老後資金によりいっそう危機感を持つ必要があるでしょう。

小規模企業共済は、節税しながら老後資金を確保できます。受け取れるお金は「共済金」といわれ、掛金の納付月数によって受け取れる金額が変わります。全国で160万人以上が加入しており、信頼性の高い制度といえるでしょう。

例えば、課税所得が300万円の個人事業主で掛金月1万円の場合は、以下のように税金を減らせます。

所得税住民税合計
加入前206,700円305,000円511,700円
加入後194,500円293,000円487,500円
差額12,200円12,000円24,200円
課税所得300万円の個人事業主が月1万円の掛金で節税できる額

(※1)

加入期間は毎年節税できるため、少ない負担で老後への備えをつくれます。

※1:小規模共済企業制度加入シミュレーション

そもそも小規模企業共済とは

小規模企業共済の概要は以下のとおりです。加入できる条件や掛金の限度、納付方法などを確認しておきましょう。

項目内容
加入資格
・建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
・商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
・事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
・常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
・常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
・上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
(※2)
加入者数約159万人
(※3)
資産運用残高約10兆8,847億円
(※3)
月額掛金1,000円〜7万円までの間を500円単位で自由に選択可能
(※4)
掛金納付方法毎月18日(18日が休日の場合は翌営業日)に預金口座から引き落とし
※月払い・半年払い・年払いの選択可
(※4)
共済金・共済金A:廃業・法人解散時に受け取り
・共済金B:老齢給付(65歳以上)・契約者死亡・65歳以上での役員退任時に受け取り
・準共済金:個人事業の法人化や法人の解散時に受け取り
・解約手当金:任意解約や掛金滞納による解約で受け取り
(※5)
貸付制度
・一般貸付制度
・緊急経営安定貸付け
・傷病災害時貸付け
・福祉対応貸付け
・創業転業時・新規事業展開等貸付け
・事業承継貸付け
・廃業準備貸付け
(※6)
小規模企業共済の概要

※2:加入資格|小規模企業共済(中小機構)
※3:現況|小規模企業共済(中小機構)
※4:掛金について|小規模企業共済(中小機構)
※5:共済金(解約手当金)について|小規模企業共済(中小機構)
※6:貸付制度について|小規模企業共済(中小機構)

個人事業主が小規模企業共済に加入することの3つのメリット

個人事業主が小規模企業共済に加入することの3つのメリット

個人事業主が小規模企業共済に加入するメリットは、以下の3つです。

  • 掛金が全額所得控除の対象である
  • 老後資金を確保できる
  • 貸付を受けられる

メリット1.掛金が全額所得控除の対象である

老後資金を普通預金や定期預金で貯蓄している場合は節税できませんが、小規模企業共済に加入すれば掛金を全て控除できるため、老後資金を蓄えながら税負担を減らせます。

税金を抑えながら将来への用意ができるという点が大きな利点です。

節税効果は所得や掛金が多いほど高まります。余剰資金をできる限り掛金にまわせば、節税メリットを存分に享受できます。

小規模企業共済制度の公式サイトでシミュレーションした年収ごとの節税効果は以下のとおりです。

課税所得金額加入前の税額
(所得税)
加入前の税額
(住民税)
加入後の節税額
(掛金額1万円)
加入後の節税額
(掛金額3万円)
加入後の節税額
(掛金額5万円)
加入後の節税額
(掛金額7万円)
200万円104,600円205,000円20,700円56,900円93,200円129,400円
300万円206,700円305,000円24,200円72,800円121,300円169,800円
400万円380,300円405,000円36,500円109,500円182,500円241,300円
500万円584,500円505,000円36,500円109,500円182,500円255,600円
600万円788,700円605,000円36,500円109,500円182,500円255,600円
700万円994,400円705,000円38,000円111,000円184,000円257,100円
800万円1,229,200円805,000円40,100円120,500円200,900円281,200円
900万円1,464,100円905,000円40,200円120,600円200,900円281,300円
1,000万円1,801,000円1,005,000円52,400円157,300円262,200円367,000円
年収別小規模企業共済の節税額一覧

(※7)

※7:小規模企業共済制度 加入シミュレーション

メリット2.老後資金を確保できる

小規模企業共済に加入すれば、老後資金を確保できます。例えば、30年間月7万円を掛金として支払った場合、受け取れる共済金は約3,000万円です。加入年数と掛金額次第では共済金のみで十分な老後資金を用意できます。

共済金は、廃業・法人解散・役員の退任などを行えば受け取れます。退職金のように一時金受取としたり、分割して年金と併給したりと受け取り方を工夫すれば、老後の生活費も不足しません。

メリット3.貸付を受けられる

小規模企業共済に加入していれば、事業資金や生活資金の貸付を受けられます。貸付の種類は以下のとおりです。

制度名称制度内容借入限度額
借入期間
一般貸付制度事業資金の借入10万円以上2,000万円以内・6か月
・12か月
・24か月
・36か月
・60か月
緊急経営安定貸付け経済環境の変化で資金繰りが困難な場合に低金利で事業資金を借入50万円以上1,000万円以内・36か月
・60か月
傷病災害時貸付け入院や災害等で被害を受けた場合に事業資金を借入50万円以上1,000万円以内・36か月
・60か月
福祉対応貸付け福祉向上のために必要な住宅改造資金、福祉機器購入等の資金を借入50万円以上1,000万円以内・36か月
・60か月
創業転業時・新規事業展開等貸付け新規開業・転業・事業拡大で必要な資金を低金利で借入50万円以上1,000万円以内・36か月
・60か月
事業承継貸付け事業承継に必要な資金を低金利で借入50万円以上1,000万円以内・36か月
・60か月
廃業準備貸付け廃業や会社の解散に必要な資金を低金利で借入50万円以上1,000万円以内・12ヶ月
貸付一覧

(※8)(※9)(※10)(※11)(※12)(※13)(※14)

※8:一般貸付制度|小規模企業共済(中小機構)
※9:緊急経営安定貸付け|小規模企業共済(中小機構)
※10:傷病災害時貸付け|小規模企業共済(中小機構)
※11:福祉対応貸付け|小規模企業共済(中小機構)
※12:創業転業時・新規事業展開等貸付け|小規模企業共済(中小機構)
※13:事業承継貸付け|小規模企業共済(中小機構)
※14:廃業準備貸付け|小規模企業共済(中小機構)

緊急時や生活用の資金も貸付してもらえるため、いざという時に役立ちます。

個人事業主が小規模企業共済に加入することの3つのデメリット

個人事業主が小規模企業共済に加入することの3つのデメリット

個人事業主が小規模企業共済に加入するデメリットは以下の3つです。

  • 共済金の受け取り時に税金が発生する
  • 掛け捨てのリスクがある
  • 元本割れのリスクがある

デメリット1.共済金の受け取り時に税金が発生する

共済金の受取には、一般的な退職金同様に税金が課されます。ただし、共済金の受け取り時に課税が発生するため、受け取りのタイミングを遅らせれば税金の支払いも後回しが可能です。

課税方式は共済金の受取方法で異なります。それぞれの方法には以下のような特徴があります。

受取方式所得の種類税負担受け取れる金額
一時金退職所得少ない少ない
分割雑所得多い多い
共済金の受取方による課税方式の違い

ただし、分割で受け取るには、共済金の支払額が300万円以上かつ受け取り理由(法人解散など)が生じた日に満60歳以上でなければなりません。

所得税は通常の退職金にも課されるため、小規模企業共済に限ったデメリットではありません。

デメリット2.掛け捨てのリスクがある

小規模企業共済には、掛け捨てのリスクがあります。掛け捨てとなってしまう条件は以下のとおりです。

  • 共済金A・共済金B:掛金納付月数が6か月未満の場合は掛け捨て(支給率0%)
  • 準共済金・解約手当金:掛金納付月数が12か月未満の場合は掛け捨て(支給率0%)

本来貯蓄になるお金が掛け捨てになってしまっては、毎月の収入が変動する個人事業主にとって大きなリスクになり得ます。掛金の変更は可能なため、掛金額を減らして半年〜1年程度の継続を目指しましょう。

デメリット3.元本割れのリスクがある

小規模企業共済は、加入年数が20年未満のうちに解約してしまうと、解約手当金が元本割れしてしまいます。個人事業主は将来が予想しにくいため、リスクを十分に考慮する必要があります。また、元を取るのに20年以上かかるため、加入には慎重な判断が必要です。

解約手当金の支給率については、以下のとおりです。

掛金納付月数支給率
掛金納付月数支給率
1月〜11月0%
12月〜83月80%
84月〜89月80.5%
90月〜95月81.25%
96月〜239月82%〜99.25%
※6か月ごとに0.75ポイント増加
240月〜245月100%
246月〜473月100.25%〜109.50%
※6か月ごとに0.25ポイント増加
474月〜479月109.75%
480月〜110%
720月120%
解約手当金の支給率

(※15)

※15:小規模企業共済制度加入者のしおり及び約款

個人事業主が小規模企業共済に加入する流れ

個人事業主が小規模企業共済に加入する流れ

個人事業主が小規模企業共済に加入する際は、以下の順で手続きをします。

  • 必要書類を確認し入手
  • 必要書類を記入
  • 加入窓口へ提出
  • 中小機構の書類を受取

最初に必要書類を入手しましょう。中小機構が定める必要書類は以下のとおりです。

個人事業主法人共同経営者
・契約申込書
・預金口座振替申出書
・確定申告書の控え(なければ開業届の控え)
・契約申込書
・預金口座振替申出書
・役員登記されていることが確認できる書類(履歴事項全部証明書など)
・契約申込書
・預金口座振替申出書
・個人事業主の確定申告書の控え
・個人事業主と締結した共同経営契約書の写し
・報酬の支払い事実が確認できる書類
小規模企業共済必要書類一覧

(※16)

所定の書類に必要事項を記入したら、以下の窓口で提出しましょう。

  • 商工会
  • 商工会議所
  • 中小企業団体中央会
  • 事業協同組合
  • 青色申告会
  • 損害保険ジャパン株式会社
  • アクサ生命保険株式会社
  • 都市銀行
  • 信託銀行
  • 地方銀行
  • 第二地方銀行
  • 信用金庫
  • 信用組合
  • 商工組合中央金庫
  • 農業協同組合(34都道府県)

(※17)

提出してから約40日後に中小機構から「小規模企業共済手帳」と「小規模企業共済制度加入者のしおり及び約款」が送付されれば、手続きは完了です。

※16:加入手続き|小規模企業共済(中小機構)
※17:加入窓口|小規模企業共済(中小機構)

小規模企業共済とiDeCoの違い

小規模企業共済とiDeCoの違い

小規模企業共済と似たような制度に「iDeCo」があります。iDeCoは自分で積み立てる年金のようなもので、小規模企業共済と同様に、掛金はすべて税控除の対象です。

また、運用益が非課税のため、利益をすべて受け取れます。一時金で受取をすれば受取時の税金も非課税になる場合があるため、税制優遇に強みのある制度です。

一方で、iDeCoは60歳以上にならないと引き出せません。小規模共済掛金は、解約すればお金を受け取れるため、受け取りの制限があるのは難点といえます。

また、自分で資産運用する必要があるため、投資や金融商品の取り扱いに慣れていないとやや不安を覚えるでしょう。投資についての理解も重要なため、リスク管理がポイントです。

どちらを優先的に利用するかは、リスクの許容度で選ぶとよいです。併用して備えをつくる選択肢もあります。

まとめ

まとめ

個人事業主の小規模企業共済への加入は、メリット・デメリットを理解するのが重要です。節税しながら老後資金をつくれ、いざという時には資金の借入もできる小規模企業共済。一方で、共済金を満額受け取るにはさまざまなリスクを考慮する必要があります。

ただし、どれも事前に知っていれば回避できるリスクです。徹底してリスク管理をすれば制度のメリットを最大限享受できます。小規模企業共済の加入は個人事業主のあらゆるリスクを減らす手段としてとてもよい選択肢であるため、ぜひ加入を検討してください。

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